「おかん、泣かんといて」

終戦の直後(昭和20年12月30日)、私は大阪で6人兄弟の4番目として生まれました。もともとは裕福な家だったそうですが、戦争で財産のすべてをなくしました。戦後は仕事もなく、父は定職につけない。そんな状態ですから、家にはいつもお金がありませんでした。

ある夜、こんなことがありました。私がまだ5歳のとき、眠っていると隣の部屋から話し声が聞こえてきます。目をこすって耳をそばだてると、母のすすり泣きでした。家族が食べていけないので、中学3年生だった長兄に学校を辞めて働きに出てほしいと懇願していたのです。